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研究報告

窒化クロム膜を被覆した木工切削工具の耐磨耗性*

材料技術課 中村 知彦
坂之上悦典
北垣 寛
松田 実
1. はじめに
2. 実験方法
3. 結果および考察
4. まとめ

*材料表面の高機能化に関する研究(X)

1 はじめに
 木材加工用途の切削工具は、木材の持つ低熱伝導性などにより切削時における工具刃先が厳しい条件におかれるため、刃先の磨耗が大きい。切削工具の耐磨耗性向上は、工具の取り替え等の工程短縮をもたらし、コスト削減に寄与するため重要な課題である。この研究では木工切削工具の長寿命化を目的として、イオン照射量やビーム角度などの制御性に優れ、皮膜の母材との密着性が良好であるとされているイオンビームアシスト蒸着法により木工加工用超硬合金製ルータービット刃に窒化クロム膜を被覆し、MDF材(木粉ボード材)の切削を行い、刃の耐磨耗性や切削性について検討を行った。

2 実験方法
 イオンビームアシスト蒸着はイオン電流密度を一定とし、クロムの蒸着速度を変えることにより、試料上でのクロム/窒素イオン(Cr/N)供給比をパラメータとして成膜した。
 ルータービット刃は超硬合金製の兼房叶サエース替刃No.255を用い、刃のすくい面に膜厚1μm被覆した。
 切削試験は被切削材をMDF材とし、表1に示す切削条件でNCルーターにより切削を行い、切削距離21.5km、39.4km、53.7km毎に表面粗さ計により刃先方向のプロファイルを計測するとともに切削終了後の刃先の電子顕微鏡観察を行い磨耗状態を評価した。また、MDF材切削面を目視および顕微鏡で観察し、繊維の切り残しであるヒゲやムシリの発生状態を確認することにより切削性の評価を行った。

表1 切削試験条件
刃先角 53.5°
にげ角 16.5°
すくい角 20°
切刃回転数 18000rpm
切刃直径 10mm
切り込み深さ 3mm
送り速度 1000mm/min
3 結果および考察
 X線回折の結果、Cr/N供給比の増加に伴い、生成した膜はCrN単相からCrNとCr2Nの混在相、さらにCr2NとCrの混在相へと結晶相の構成が変化していることがわかった。
図1に各切削距離における刃先の磨耗プロファイルを示す。切削により全ての刃で刃先端から3mm付近を起点としてプロファイルは変化し、最大約8μm切削前の刃先位置から後退しており、刃先の磨耗が認められた。また膜の有無によらず切削距離21.5kmまでに刃先磨耗が顕著に進んでおり、これ以上の切削で磨耗の進行は少なかった。
 各刃の磨耗の進行状態を比較するために、図1から各切削距離で切削前と比較した磨耗面積を計測し、磨耗起点より刃先までの距離で磨耗面積を除して算出した平均磨耗深さの変化を図2に示す。平均磨耗深さは刃先の内部方向への磨耗による平均的な後退距離を表している。窒化クロム膜被覆刃の平均磨耗深さは、未被覆の場合に比べて1〜2μmほど低い値で推移しており、刃先の磨耗は膜被覆により若干抑制されていることがわかった。また、未被覆刃では切削距離53.7kmまで平均磨耗深さは増加していくが、被覆刃では切削距離39.4kmでほぼ磨耗の進行が停止していた。また結晶相の比較ではCrN>Cr2N +Cr>Cr2N +CrNの順に磨耗量が減少していた。
 刃先の電子顕微鏡観察の結果、未被覆刃では刃先を構成する炭化タングステン粒子の脱落がすくい面側に進行しているのに対して、被覆刃では粒子の脱落が抑制されていた。このために、すくい面側の磨耗の進行が抑えられ、平均磨耗量が膜の被覆により低下したものと考えられる。
 MDF材切削面の形状は、膜の有無および膜のCr/N供給比の違いによる顕著な差異がなく、ヒゲ・ムシリが発生しており、膜被覆による切削性の改善は認められなかった。これは、膜被覆刃でも磨耗の抑制が十分ではないためと考えられた。

図1 刃先の磨耗プロファイル
4 まとめ
 イオンビームアシスト蒸着法により超硬合金製ルータービット刃に窒化クロム膜を被覆し、MDF材切削を行った際の刃の耐磨耗性、切削性について検討したところ、以下の結果が得られた。
1)すくい面に膜厚1μmの窒化クロム膜被覆を行うことにより、未被覆刃と比較して平均磨耗深さが1〜2μm減少し、刃先の磨耗が抑制された。窒化クロムの結晶相構成による比較では、 CrN>Cr2N +Cr>Cr2N +CrNの順に平均磨耗深さが減少した。
2)刃先の磨耗はタングステンカーバイド粒子の脱落により進行し、被覆の有無によらず刃先が15〜20μm程度に広がったが、膜被覆により粒子の脱落が抑制された。
3)MDF材の切削面観察では切削距離39.4km以上で膜被覆の有無によらずヒゲ・ムシリが発生し、切削性の改善は認められなかった。

図2 切削距離による平均磨耗深さ変化

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